現代刀の位列とは?栗原彦三郎の7段階と無鑑査・人間国宝の違い

現代刀の位列とは?
目次

現代刀の刀匠にも「位」はあるの?

古い刀の説明では「最上作」「上々作」といった位列(いれつ)の言葉をよく目にします。位列とは、昔の刀剣書などが刀工の技量や評価を段階に分けて並べた格付けのことです。ところが、明治以降に作られた現代刀(げんだいとう)の刀匠(とうしょう)について調べると、「神品(しんぴん)の列」「無鑑査(むかんさ)」「人間国宝」など、まったく違う言葉が並んでいて戸惑う方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「現代刀の位列」と呼ばれるものが何を指すのかを資料ごとに整理し、位列とは別物である現在の称号・認定制度との違いを初心者向けに解説します。

なお、位列には資料ごとに種類があります。江戸時代の試し斬りによる切れ味の格付けは業物位列とは、川口陟(かわぐち・のぼる)の刀剣書による位列は刀剣要覧の位列、辞典による位列は刀工辞典の位列で解説しています。これらが主に古刀・新刀の刀工を対象とするのに対し、本記事は明治以降の刀匠を対象とする点が違います。

現代刀の位列とは、主に栗原彦三郎の「現代刀匠の位列」を指します

結論から言うと、「現代刀の位列」として刀剣店や刀剣系の解説サイトで紹介されているのは、主に昭和17年(1942年)に栗原彦三郎(くりはら・ひこさぶろう)が定めた現代刀匠の位列です。一方、戦後から現在までの刀匠の評価は、位列ではなく、日本美術刀剣保存協会の「無鑑査」や国の「重要無形文化財保持者(人間国宝)」といった制度で示されるのが一般的です。

栗原彦三郎の位列(昭和17年)とは

栗原彦三郎は、明治以降に衰えた作刀の技術を立て直すために力を尽くした人物として知られています。刀剣ワールド(名古屋刀剣博物館)の解説によると、栗原は帝展(ていてん)や共進会、新作日本刀展覧会などの得点表や受賞歴を参考にして、300余名の現代刀匠の位列を作りました。刀剣店のつるぎの屋では、これを「聖代刀匠位列(せいだいとうしょういれつ)」と呼んで紹介し、参考文献として『日本刀を二度蘇らせた男 栗原彦三郎昭秀全記録』を挙げています。刀剣ワールドでは「現代刀匠の暫定位列表」という呼び方も使われています。

ここで大切なのは、評価の基準が「展覧会での成績」だという点です。江戸時代の業物位列は試し斬りの切れ味、ほかの刀剣書の位列は作品の出来や市場の評価などを基準にしていますが、栗原の位列は当時の展覧会で審査された成績をもとにしています。

7つの段階名

栗原の位列は、上から次の7段階に分かれています。各段階の刀匠名は、つるぎの屋の一覧で確認できたものから数名だけを挙げます(全体の転載はしていません)。

段階(上から) 刀匠の例(つるぎの屋の一覧による)
神品の列(しんぴんのれつ) 堀井俊秀、高橋義宗
貴品上位(きひんじょうい) 吉原国家、秋元昭友
貴品の列 藤田忠光、宮入昭平
上工の上位(じょうこうのじょうい) 菊地国延、沖芝正次
上工の列 白石宗重、金谷勝正
良工の上位(りょうこうのじょうい) 河合兼義、後藤兼光
良工の列 山中勝吉、小谷勝久

段階名は古い位列の「最上作・上々作・上作」とは異なり、「神品」「貴品」「上工」「良工」という言葉が使われているのが特徴です。刀剣ワールドは「暫定」位列表という表現も用いており、完成された最終的な格付けというより、その時点での評価と考えておくのが無難です。

ほかの刀剣書の「現代刀」の扱い

『刀剣要覧』や刀工辞典にも現代刀匠が載っていることがありますが、当サイトの調査では、それらの資料に現代刀匠専用の独立した位列があるかどうかを出典で確認できませんでした。そのため、本記事では確認できた栗原の位列のみを「現代刀の位列」として紹介しています。各資料の内容は、それぞれの記事で説明しています。

位列とは別物:無鑑査(日本美術刀剣保存協会)

戦後の刀匠の評価として最もよく目にするのが「無鑑査」です。公益財団法人日本美術刀剣保存協会(日刀保・にっとうほ)の規程では、無鑑査とは、協会が主催する展覧会に出品する作品について、審査を必要としない資格のことと定められています。つまり「審査を受けなくても出品できるほどの実力がある」と認められた刀匠の称号です。

同協会は昭和30年(1955年)からコンクールを開いており、現在は「現代刀職展」という名前で開催されています。作刀の部には特賞・優秀賞・努力賞などがあり、特賞の中でも特に優れた作品に高松宮記念賞などが贈られます。無鑑査の選任基準は、この展覧会で特賞を何度も受賞するなど、非常に高い成績を長年続けることが求められる厳しいものです。また、無鑑査の中から特に優れた作品にだけ「正宗賞」が贈られることがあります。

無鑑査は、あくまで一つの団体が定める資格であり、国の制度ではありません。また、位列のように全刀匠を段階に並べたものでもない点に注意しましょう。

位列とは別物:人間国宝(重要無形文化財保持者)

いわゆる「人間国宝」は、文化財保護法に基づいて国(文部科学大臣)が重要無形文化財の保持者として認定する制度です。刀剣の分野では「日本刀」の技を高度に体得した刀匠が認定されています。刀剣ワールドによると、刀工として初めて認定されたのは高橋貞次(たかはし・さだつぐ)で、昭和30年(1955年)の認定とされます。また、天田昭次(あまた・あきつぐ)が平成9年(1997年)に人間国宝に認定されたことが報道などで確認できます。

なお、日本美術刀剣保存協会の規程には、人間国宝に認定された刀匠に「名誉無鑑査」の称号を授与できるという定めがあり、国の認定と協会の資格は別々の制度であることがわかります。

3つの評価の違いを表で整理

名称 誰が決めるか 基準 性格
栗原彦三郎の位列 栗原彦三郎(個人) 戦前の展覧会の得点・受賞歴 昭和17年時点の段階的な格付け
無鑑査 日本美術刀剣保存協会 協会展覧会での受賞成績など 協会の資格・称号
人間国宝 国(文部科学大臣) 重要無形文化財の技の高度な体得 法律に基づく公的な認定

知っておくべき注意点・失敗例

  • 位列と称号を混同しない:「神品の列」は昭和17年の一個人による格付けで、戦後の「無鑑査」「人間国宝」とは基準も決める人も違います。販売ページで両方が並んでいても、同じ物差しではありません。
  • 位列は刀匠の評価で、一振りの評価ではない:位の高い刀匠の作でも、刀ごとに出来は異なります。個々の刀の評価は鑑定書(日本刀の鑑定書とは)や現物の状態で判断しましょう。
  • 評価時点が違う:栗原の位列は昭和17年時点のもので、その後に活躍した刀匠は含まれません。
  • 資料による差:呼び名や掲載刀匠は資料によって差があります。複数の資料で確認しましょう。
  • 「無鑑査作」の表示を確かめる:無鑑査に選ばれる前の作品もあります。作られた時期と称号を得た時期の関係は、刀剣店に確認しましょう(刀剣店の選び方)。

まとめ

「現代刀の位列」と言う場合、主に栗原彦三郎が昭和17年に展覧会の成績をもとに定めた7段階の位列(神品の列〜良工の列)を指します。一方、戦後の刀匠の評価は、日本美術刀剣保存協会の無鑑査や、国が認定する人間国宝といった別の制度で示されます。どの物差しで、いつ、誰が評価したものかを意識するだけで、現代刀の説明文はぐっと読みやすくなります。ぜひ刀匠の背景にも目を向けて、お気に入りの一振りを探してみてください。

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