「最上作」「上々作」って誰が決めたの?
刀剣店の商品説明を見ていると、刀工名の横に「最上作(さいじょうさく)」「上々作(じょうじょうさく)」「上作(じょうさく)」といった言葉が書かれていることがあります。格付けらしいことは分かっても、どの本の、どんな基準による評価なのかまでは書かれていないことが多く、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、刀剣店でよく使われる「刀工辞典の位列(いれつ)」について、元になった資料、5つの段階の意味、代表的な刀工、そして購入時の受け止め方までを初心者向けに整理します。
刀工辞典の位列とは、刀剣研究家の藤代義雄(ふじしろよしお)が『日本刀工辞典』の中で、刀工の技量を最上作・上々作・上作・中上作・中作の5段階に格付けしたものです。「藤代位列」と呼ばれることもあり、現在の刀剣店の商品説明で使われる作位の多くがこの系統にあたります。
刀工辞典の位列とは:藤代義雄による5段階の作位
そもそも「位列」とは
位列とは、刀工(刀を作った人)をランク分けしたものです。ひとくちに位列といっても、評価した人や資料によって基準も段階名もまったく異なります。代表的なものには次のような資料があります。
- 業物位列:江戸時代の山田浅右衛門吉睦が、試し斬りによる「切れ味」で格付けしたもの(最上大業物など)。詳しくは業物位列とはで解説しています。
- 刀剣要覧の位列:川口陟(かわぐちのぼる)の『刀剣要覧』による格付け。詳しくは刀剣要覧の位列をご覧ください。
- 刀工辞典の位列:この記事で扱う、藤代義雄『日本刀工辞典』による作位(技量・出来の評価)。
- 現代刀の位列:明治以降の刀工の格付けや認定制度。現代刀の位列で解説しています。
同じ刀工でも資料によって位が違うことは珍しくありません。「どの資料の位列か」を意識することが、位列を読み解く第一歩です。
元になった資料:『日本刀工辞典』古刀篇・新刀篇
「刀工辞典」とは、藤代義雄が著した『日本刀工辞典(にほんとうこうじてん)』を指すのが一般的です。古刀篇と新刀篇の2冊からなり、昭和12〜13年(1937〜1938年)にかけて刊行されたとされます。
その後、弟で研師(とぎし)の藤代松雄(ふじしろまつお)が共著の形で新しい資料を加え、昭和36年(1961年)に改訂版が刊行されました。藤代松雄はのちに平成8年(1996年)、刀剣研磨の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された人物です。現在は「藤代義雄・藤代松雄著」として流通している版が多く見られます。
各刀工の銘や代表作の押形(おしがた:刀身や茎の形・銘を写し取った図)を収めた辞典で、その中に刀工の位列が示されています。
5つの段階の意味
刀工辞典の位列は、上から次の5段階です。
| 段階 | 読み | おおまかな意味 |
|---|---|---|
| 最上作 | さいじょうさく | 最も優れた技量の刀工 |
| 上々作 | じょうじょうさく | 最上作に次ぐ、非常に優れた刀工 |
| 上作 | じょうさく | 優れた技量の刀工 |
| 中上作 | ちゅうじょうさく | 中作より上の刀工 |
| 中作 | ちゅうさく | 標準的な技量の刀工 |
「中作」は下手という意味ではありません。
評価の基準:藤代義雄の独自の視点
名古屋刀剣博物館の解説では、この辞典は従来の刀剣書とは異なり、独自の視点に基づいて位列が付けられている点が特徴とされています。
つまり、業物位列のような「切れ味」ではなく、作品の出来や技量という鑑賞面からの評価だと理解するとよいでしょう。
なお、この位列はのちに弟子筋にあたる柴田光男(しばたみつお)が補足・追加し、一覧としてまとめたとされます。刀剣店で見かける位列表には、この補足を含むものもあります。
段階ごとの代表的な刀工
刀剣店つるぎの屋の位列一覧で確認できたものから、代表例を挙げます(全体の転載ではなく一部の例です)。
| 時代 | 最上作 | 上々作 | 上作 |
|---|---|---|---|
| 古刀 | 三条宗近(さんじょうむねちか)、粟田口吉光(藤四郎吉光)、備前光忠(みつただ) | 青江俊次(あおえとしつぐ)、古備前利恒(としつね)、一文字吉家(よしいえ) | 一文字家忠(いえただ)、長船景依(かげより) |
| 新刀 | 埋忠明寿(うめただみょうじゅ)、越前守助広(すけひろ)、肥前忠吉(ただよし)、井上真改(いのうえしんかい) | 近江守助直(すけなお)、多々良長幸(たたらながゆき)、一竿子忠綱(いっかんしただつな) | 埋忠吉信(よしのぶ)、伊勢大掾吉広(よしひろ、初代) |
| 新々刀 | 山浦清麿(やまうらきよまろ)、水心子正秀(すいしんしまさひで) | 栗原信秀(のぶひで)、月山貞一(がっさんさだかず)、山浦真雄(さねお) | 水心子正次(まさつぐ)、月山貞吉(さだよし) |
同じ一覧では、新々刀を明和〜大正年間の刀工とし、昭和以降は含めていません。各時代区分については古刀・新刀・新々刀・現代刀の違いも参考にしてください。
業物位列との違い
| 項目 | 刀工辞典の位列 | 業物位列 |
|---|---|---|
| 成立 | 昭和12〜13年(改訂版は昭和36年) | 江戸時代後期 |
| 評価者 | 藤代義雄(のち松雄が改訂) | 山田浅右衛門吉睦 |
| 評価軸 | 作の出来・技量 | 切れ味(試し斬り) |
| 段階 | 最上作〜中作の5段階 | 最上大業物〜業物の4段階 |
両方の評価を持つ刀工もいます。たとえば肥前忠吉は、業物位列では最上大業物、刀工辞典の位列では最上作とされています。商品説明で「最上作・最上大業物」と並べて書かれているのは、別々の資料の評価を併記しているためです。
知っておくべき注意点・失敗例
店によって出典の説明が異なる
「最上作」という言葉自体は藤代位列だけのものではありません。たとえば同じ系列の刀剣買取店の用語解説では、五段階の作位について、古刀は『本朝鍛冶考』『掌中古刀銘鑑』、新刀は『新刀弁疑』などを基にしていると説明しています。このように、段階名が同じでも出典の説明が店や資料によって異なる場合があります。気になるときは「どの資料の位列ですか」と販売店に尋ねましょう。
位列は一振りの出来を保証しない
位列は刀工全体への評価です。最上作の刀工の作でも出来には幅がありますし、在銘でも本人の作とは限りません。真贋や一振りの評価は、日本美術刀剣保存協会などの鑑定書で確認するのが基本です。詳しくは日本刀の鑑定書とはをご覧ください。
「位列が高い=自分に合う刀」ではない
位列が高い刀工ほど価格も高くなる傾向がありますが、中上作や中作の刀工にも見どころのある作は多くあります。値段の決まり方は日本刀の値段の決まり方で解説しています。位列はあくまで目安の一つとして使い、刀そのものを見て選ぶことが大切です。
まとめ
- 刀工辞典の位列は、藤代義雄『日本刀工辞典』(古刀篇・新刀篇、昭和12〜13年)による刀工の格付け
- 昭和36年に弟・藤代松雄との共著で改訂版が刊行された
- 段階は最上作・上々作・上作・中上作・中作の5つ
- 切れ味を評価した業物位列とは別物で、作の出来・技量を評価したもの
- 刀剣店の「最上作」などの表記は、出典を確認しつつ目安として受け止める
位列の意味が分かると、商品説明がぐっと読みやすくなります。資料ごとの違いを楽しみながら、ぜひ気になる刀工の作を実際に見に行ってみてください。

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