茎に刻まれた細かい「線」の正体が気になっていませんか
日本刀の柄(つか)を外して茎(なかご)を見たとき、表面に細かい斜めの線や横線が一面に刻まれていることに気づいた方も多いでしょう。「これは傷なのか」「模様なのか」「何か意味があるのか」と疑問に思うのは自然なことです。
この線は「鑢目(やすりめ)」と呼ばれ、刀鍛冶(かたなかじ)が意図して付けたものです。実は鑢目は、刀の作者や流派を見分ける手がかりにもなる、鑑賞上とても大切なポイントです。この記事では、鑢目の意味、代表的な種類、見るときの注意点を初心者向けに分かりやすく解説します。
結論から言うと、鑢目とは茎の表面に鑢(やすり)をかけて付けた仕上げの筋目のことです。刀鍛冶や流派によって筋の向きや形に特徴があり、鑑定の手がかりの一つとされます。
鑢目は「茎の仕上げとして付けた筋目」です
刀鍛冶は刀身を仕上げる最終段階で、茎の表面を鑢で整えます。そのときに残る筋目が鑢目です。
鑢目が付けられる理由
鑢目の役割には、いくつかの説があります。代表的なものとして、次のような理由が挙げられます。
- 茎の形を整えるため:鍛えた茎の表面を鑢で平らに整える仕上げ作業の跡
- 柄から抜けにくくするため:表面に凹凸があることで、柄の中で茎が滑りにくくなるとされます
- 作者の個性を表すため:鑢のかけ方に刀鍛冶ごとの癖や流派の伝統が表れます
どの理由が最も重要かについては諸説ありますが、実用と作者の表現の両面を持つ仕上げであると考えられています。茎の役割全体については茎とはをご覧ください。
代表的な鑢目の種類
鑢目には多くの種類があり、主に筋の向きや角度によって名前が付けられています。代表的なものを表にまとめました。
| 名称 | 読み方 | 特徴 |
|---|---|---|
| 切 | きり | 茎に対して横方向(水平)にかけた鑢目 |
| 勝手下がり | かってさがり | 刃側から棟側に向かって、わずかに下がる角度の鑢目 |
| 勝手上がり | かってあがり | 勝手下がりとは逆に、刃側から棟側に向かってわずかに上がる鑢目 |
| 筋違 | すじかい | 勝手下がりの傾きがさらに急になった鑢目 |
| 逆筋違 | さかすじかい | 勝手上がりの傾きがさらに急になった鑢目 |
| 鷹の羽 | たかのは | 棟側と刃側から斜めにかけ、中央で山形になる鑢目 |
勝手上がりは、左利きの刀鍛冶の作に多く見られるともいわれます。このほかにも、筋違の傾きがさらに大きい「大筋違(おおすじかい)」など、名称や分類にはさまざまなものがあり、資料によって呼び方が異なることもあります。「逆筋違」は「ぎゃくすじかい」と読まれることもあります。まずは上の代表的な種類を覚えておくと、茎を見たときに見分けやすくなります。
鑢目の時代による移り変わり
日本刀のごく初期には、実用が重視され、茎は鎚(つち)で打ったままの状態で仕上げられることが多かったとされます。その後、鑢で茎を整えることが一般的になり、刀鍛冶や流派ごとの鑢目の特徴が生まれていきました。
また、鑢目がかけられるのは茎の平らな面(平地:ひらじ)だけではありません。棟や刃方(はかた:茎の刃側の面)、茎尻にも鑢がかけられることがあり、棟の鑢目の有無や形も観察のポイントになります。
鑢目の向きの見方
鑢目の向きを判断するときは、茎の「表(おもて)」を見るのが基本です。一般に、刀(打刀)は腰に差したときに外側を向く面、太刀は腰に佩(は)いたときに外側を向く面を表とし、銘(めい)は多くの場合この面に切られます。裏から見ると傾きが逆に見えるため、どちらの面を見ているのかを意識しないと、勝手下がりと勝手上がりを取り違えてしまうことがあります。
化粧鑢とは
茎の上部、鎺(はばき)が収まる付近には、下の鑢目とは異なる飾りの鑢目がかけられていることがあります。これを「化粧鑢(けしょうやすり)」と呼びます。装飾的な意味合いが強く、江戸時代の新刀期以降に現れたとされ、刀の時代を考える手がかりの一つになります。時代区分については古刀・新刀・新々刀・現代刀の違いをご覧ください。
鑢目が鑑定の手がかりになる理由
刀鍛冶は、鑢のかけ方を師匠から受け継いだり、自分の流儀として一貫して用いたりすることが多かったとされます。そのため、鑢目の種類は、茎の形や銘(めい)の書き方とあわせて、作者や流派を推定する材料になります。ただし、同じ刀鍛冶でも時期によって鑢目が変わることもあるため、鑢目だけで作者を断定することはできません。銘については銘とは、流派については五箇伝とはで解説しています。
鑢目を見るときの注意点・失敗例
失敗例1:茎の錆を落としてしまう
もっとも避けるべき失敗が、茎の錆(さび)を磨いて落としてしまうことです。茎の錆は長い年月をかけて付いたもので、時代を判断する大切な手がかりになります。錆を落とすと鑢目も一緒に消えてしまい、刀の価値を大きく損なう恐れがあります。茎は磨かず、錆もそのまま残しておくのが基本です。刀身の錆の扱いについては日本刀が錆びた時の対処をご覧ください。
失敗例2:素手で茎をべたべた触る
茎は刀身ほど神経質にならなくてよいと思われがちですが、手の脂や汗は新たな錆の原因になります。観察するときはなるべく手袋を使い、触れる時間を短くしましょう。
失敗例3:柄を無理に外す
鑢目を見るには、目釘(めくぎ)を抜いて柄を外す必要があります。しかし、慣れないうちに無理に外そうとすると、柄や刀身を傷める恐れがあります。手順に不安がある場合は、刀剣店で見せてもらうのが安心です。目釘については目釘とはで解説しています。
鑢目が見えにくい刀もある
古い刀では錆が厚く、鑢目がほとんど判別できないことがあります。また、磨上げ(すりあげ)によって茎が作り直された刀では、元の鑢目と後から付けた鑢目が混在していることもあります。見え方に違いがあっても、それ自体が刀の歴史を物語っていると考えて観察してみてください。磨上げについては磨上げとはをご覧ください。
まとめ
- 鑢目とは、茎の表面に鑢をかけて付けた仕上げの筋目
- 茎を整える、柄から抜けにくくするなどの役割があるとされる
- 切・勝手下がり・勝手上がり・筋違・逆筋違・鷹の羽などの種類がある
- 作者や流派を推定する手がかりの一つになる
- 茎の錆は落とさず、そのまま残すのが基本
普段は柄の中に隠れている鑢目ですが、そこには刀鍛冶の仕事の跡がはっきりと残っています。機会があれば、ぜひ茎の鑢目をじっくり観察してみてください。数百年前の刀鍛冶の手の動きを感じられる、日本刀ならではの楽しみ方ですよ。

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